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【ドラクエ5-天空の花嫁テーマ考察】運命を変えられない僕達に、それじゃあ何が出来るんだろう?【11818文字】

まえがき

 以前からドラクエ4・5・6、所謂天空シリーズを通してのテーマに関する記事を書きたいと思っていたので、それならそれぞれについても書いてみようという試みの第一弾天空の花嫁編です。

この試みの為に再プレイをしていたのですが、プレイする自分の年齢が上がっていく毎に「ここが素敵!!!」となるポイントが変わったり増えたりしていく気がしますね。

結婚イベントや子供が生まれた時、その後の石化イベントなどは今までプレイした中で一番自分の感情の起伏を感じましたし、もっと年齢が上がっていくと今度は恐らくパパス関連で同じようになるのでしょうね。

ドラクエ全体を通して見ても異色な要素が多々ある本作ですが、結局本作のストーリーテーマってどういうものだと言えるんだろう?それってどんな意味があるんだろう?という視点をメインで取り扱っている記事となります。

それの取り巻きとして、作中では明言されてなかったけどミルドラースの正体ってこうなんじゃない?みたいな考察なんかも行っています。

ミルドラースはよく影が薄いラスボスのような扱いを受けていますがドラクエ5を俯瞰してみると主人公よりも主人公らしいような人物で、裏主人公と言ってもいいクラスの経歴や苦悩、努力があったんだなと感じました。

 

 当ブログで扱う記事では毎度の事ですが、前提として「ゲーム:ドラゴンクエスト5天空の花嫁~」内で得られる情報のみを取り扱います。

その他のゲームや書籍・CDは勿論、製作陣の誰々のインタビューでは~と言った内容も排除しているのでご注意ください。

当記事を書く為にプレイしたバージョンはDS版リメイクです。

また、ネタバレ全開の記事となっているので気にされる方はプレイ後にまた覗いて貰えると嬉しいです。

花嫁戦争(ビアンカフローラ戦争)はもうやめないか?という記事も現在執筆中なので良ければ完成次第そちらもどうぞ。

 

運命という絶対的な力

 本作品の主要人物達は“定められた運命“によって突き動かされています。

  • 言い伝えに従って伝説の勇者を探すパパス/主人公
  • 伝説や予言通りに生まれ、伝説の勇者という生まれに従って魔王を討たんとする息子

は勿論プレイヤーと共に旅をしましたが、もう1人絶対に忘れてはならない人物が居ます。それが

です。

そもそもこの物語で起こる様々な事件は、自分が伝説の勇者に討たれる事を予言したミルドラースが、その勇者は高貴な身分の元に生まれるという事を更に予言したので先に潰しておこうという動きに端を発しています。

結果的にその動きは報われなかった為、定められた運命(予言)に抗おうとしたミルドラースが努力虚しく運命通り勇者に討たれてしまう物語だと言えますね。

ミルドラースは自分が視た予言の結末を変える為に勇者の芽を潰したり、魔界で力を蓄えたりと運命に必死に抗い、最終的には「神をも超えた」と豪語するまでに至りますが、翻って主人公サイドは運命や伝説と言った定められたものに従って生きていたらミルドラースを倒せちゃったと言った形の対比が取られているように見える構図になっています(その内容は過酷ではありましたが)。

個人的には、自分の強い意志で運命を変えようとした上に、そもそも人間でありながら神になる事を強く望んだという前向きな意志力全開のミルドラースを応援したい気持ちが強いし、運命に従っていたら何かを為せただけの主人公サイドよりもそっちの方を尊びたいとも思うのですが、事実として物語上でミルドラースは討たれているので、この作品では単純な意志力よりも上位に来る何かがあると示唆されているという事になりますね。

では主人公サイドにあってミルドラースに無かったものは何かという話になり、具体的に色々挙げる事は出来ますが作中で最も強調されていた要素で言うと意志ならぬ"遺志の継承"ではないかと思います。

遺すべきものは命ではない

 作中で亡くなった主要人物と言えばやはりパパスが挙がるのではないでしょうか。

物語最序盤である主人公幼少期は彼の頼もしさや父親としての真っすぐな気持ちが描かれ、そしてその死に際に旅の目的が明かされます。即ち妻のマーサを魔界から取り返す事ですね。

そしてこの目的は息子である主人公に継がれ、果ては孫である勇者(と妻である花嫁)にも継がれていきました。

ラスボスとなるミルドラース戦で当然パパスはその場に居ませんが、彼の遺志は脈々と受け継がれ、結果ミルドラースと対峙していた一家全員がその遺志を強く持って臨んでいたので実質パパスの遺志vsミルドラースという構図になっていたとさえ言えるのではないでしょうか。

確かにパパスは主人公幼少期にミルドラースの部下であるゲマに敗れて命を落としましたが、パパスが為さんとしていた事は子孫やその家族に受け継がれて達成されました。

いや、パパスの遺志はマーサを救う事だったんだから達成出来てないしミルドラース戦の時点で瓦解しちゃってるじゃん

という声が聞こえてくる気がします。そうですね。マーサは助けられませんでした。

しかしパパスの遺志は「マーサを救う事のただ一点」だったというよりは、「愛する家族と共に生きる」という大きな枠を持ったものだったように思えます。そしてその大きな枠の中で現在欠けているのがマーサなのでマーサを救う旅に出ているというお話ですね。

であれば、その遺志を継いだ主人公の目的も「愛する家族と共に生きる」となり、残念ながら命を落とした父パパスと母マーサは居ないものの、今ここに生きている妻・息子・娘と共にこの平和な世界を、伝説の勇者一行としてでは無くただひとつの家族として謳歌する事が出来ているエンディングはやはりパパスの遺志を達成していると言えるような気がします。

 

「見てください あなた。子供たちのあの幸せそうな顔を」

「ああ 見ているとも。私たちの子供は、私たちが かなえられなかった夢をかなえてくれたようだ」

 

──マーサとパパス/『天空の花嫁

 

エンディングムービーでは最初にドラクエシリーズではおなじみの『序曲』が流れますが、上記のパパスのセリフを含むテキストが流れる際には『結婚ワルツ』というBGMに変わり、そのままスタッフロールへと移ります。

このシーン以外に結婚ワルツが流れたタイミングというのは花嫁との結婚式の時で、これは"誰かと誰か(この場合は花嫁と主人公)が家族になる瞬間"です。

エンディングムービーのシーンは別に誰かの結婚式でもなんでもありませんが、"誰かと誰かが家族になった時の曲"が流れたという事も、やはりようやくこの一家が1つの家族を始められたんだという事の示唆になっていると言えそうですね。

 

「わたし… お父さんもお母さんも大好きだから ふたりが結婚して 本当によかった!」

 

──主人公の娘/『天空の花嫁

 

神をも超えたはずのミルドラースの敗因はなんだろう?

 主人公サイドは遺志の継承によって目的を達成した事を確認しました。ではミルドラースはどうでしょうか?

ミルドラースの原初の目的は"神になる事"だと示されています。

そして自らの予言で見た「伝説の勇者に討たれる」という未来を回避する為にあの手この手を尽くしていましたね。

しかしミルドラースが神になって具体的に何がしたかったのかが作中からはあまり読み取れません。世界が征服したかったのか、誰かに復讐がしたかったのか……他のラスボスにあるような最終目標が不明瞭でした。

が、"ミルドラースは元は人間だった"という話を踏まえるとこれを解決する事が出来ます。

根拠については「ミルドラースについて」の項で後述しますが、ミルドラースはマーサと同じくエルヘブン出身の人間である可能性が高いです。

「今では血が薄まり能力も弱い」とされる現エルヘブンの長老でさえ主人公達が彼の地を訪れる事を予知していた為、恐らくミルドラースを含む古いエルヘブンの民は1つの基礎能力として予知能力を備えていた事でしょう。

これも後述しますが、ミルドラースエルヘブンの中でも「賢者の中の賢者」「王者の称号を持つ唯一の存在」と呼ばれる程の才覚を有していた可能性がある為その能力も強力なものであったと思われます。

であれば【まだ人間だった時に"遠い未来で伝説の勇者に討たれる自分"という予言を授かってしまい、その予言から逃れる為にあの手この手を尽くすも予言は変わらず。最終的には人智を超えた神という存在になる事しか解決法が浮かばなかったので神になる事を望んだ】というストーリーラインが見えてくるのではないでしょうか。

このストーリーラインから再度最終決戦の構図を見てみると

"死を逃れる"という願いを果たす為にどんな手段も厭わなかったミルドラース

vs

"愛する家族と共に"という願いを果たす為に死をも乗り越えたパパスの遺志

という対比になり、物語そのものとしても綺麗に纏まっているように感じられます。

ミルドラースの意志や行動力は確かに強く才覚も比類無きものであったのでしょうが、命を賭してまで受け継ぎたい遺志に欠けていたのでしょう。

あるいはミルドラースの場合は命に由来する執着である為、パパスらのような遺志から見ればそれは本人の価値観から生まれた願望や意志なんかでは無くただの生存に必要な欲求に過ぎない。本物の意志ではないと断じる事が出来るというお話なのかもしれません。

 

家族足り得なかったはずの家族が、それでも家族を始められたのは何故だろう?

 ここまでで主要人物と物語の大まかな構図を確認しました。この段階であれば物語のテーマの解釈は様々に渡るでしょう。

「家族愛だ」という意見、「絆だ」という意見。

これらも当然読み取れるテーマの1つでしょう。あるいはこの記事を読み終えても尚そう思う方や「いや、だからそれって家族愛(絆)じゃん」と言うも居るかもしれません。しかし私の解釈ではやはり"遺志の継承"が本作の最も大きなテーマとなります。

その根拠は正に「家族愛」や「絆」で納得するにはやや違和感のある息子や娘(以後子供たち)の行動があるからです。

子供たちが生まれて息つく暇も無く、両親である主人公と花嫁は石像にされて遠い場所に行ってしまいますね。その後8年間以上この親子が会うことはありませんでした。なので子供たちの記憶には両親が存在していないでしょう。

にも拘わらず子供たちは父親との再会を大いに喜び、母親に会う為に奮闘し、そしてやはり母親との再会も大いに喜びます。

更には魔界に居るマーサを救出する事についても非常に積極的で、会った事も無い祖母を助ける事やその行動に何の疑問も抱いていない様子です。

正直私はこれにずっと違和感がありました。

会った事もない両親との、初めましてですらある再会をこんなに喜べるか? 祖母に至ってはこの勇者一行の誰も会った事ないのになんでこんなに迷い無く進めるんだ?」と。

仮にこの一家が既に長い時間で愛を育んでいたけど離別してしまった、というストーリーなら納得出来ます。しかし繰り返すように会った事すらないんです。子供たちからすれば本当に家族なのかすら判然としないはずです。

ですがこの子供たちの実直で真摯に家族を求める行動は"遺志の継承"という視点から見ると腑に落ちるものがあります。

パパスの遺志を継承しているのは主人公一家だけではありません。サンチョもそうなのです。

ずっとパパスの側近として旅をしてきたサンチョ、パパスが亡くなった後も事ある毎にパパス様パパス様と言っています。話しかけても本当にパパスの話ばかりでノイローゼになりそうだったので私は今回のプレイ中に彼を馬車から追い出したくらいパパスの話をします。厄介昔語りおじさんです。

両親が行方知れずになってから8年間、子供たちは主にサンチョに面倒を見て貰っていたと思われる為、パパスの悲願(マーサを含めた家族と生きる事)についてたくさんたくさん聞かされていたのでしょう。

勝手に想像を膨らませるのであれば、マーサを探す旅路でパパスが語ったであろう胸の内は、当事者と言える家族の1人であり当時まだ余りにも幼かった主人公に対してよりも、信頼出来る側近であり共に旅をしていたサンチョの方が多くてもおかしくないと思います。

パパスの遺志を実現出来るのは勿論その家族のみですが、パパスの遺志を最も強く継いでいたのはサンチョなのかもしれません。

であれば子供たちもまた主人公やプレイヤーの見ていない内にサンチョ経由でパパスの遺志を強く継ぎ、「家族愛や絆なんてまだ無いけれど、家族と過ごす事がそんなに素敵な事だって言うなら、家族と言える人を1人でも多く助けて一緒に過ごしたいんだ」と思って行動するのも納得出来る話です。

 

「おばあちゃんのこと想っただけで胸が あったかくなるから きっと おばあちゃん わたしの胸の中にいるの。」

 

━━主人公の娘/『天空の花嫁

 

「お父さんと お母さんと おじいちゃんと おばあちゃんの血。そのすべてが この身体に流れていると思うと すごく感動する。 妹もそうだろ?」

 

━━主人公の娘/『天空の花嫁

 

 余談ですが、ダンジョンで石像にされた主人公はその後盗賊に持ち出され、オークションにかけられてしまい、最終的に富豪の庭に飾られますね。

その富豪は子供が生まれた記念で守り神として石像(主人公)を買っていたそうで、庭先ではその子供が初めて歩けるようになった所や元気に遊びまわっている所など、主人公が過ごすはずだった親子としての幸せのようなものが年月の経過と共に描かれます。

この時主人公の妻も同時に石像になってしまっているので家族としてのあらゆる幸せを没収されているプレイヤーは歯噛みする思いでこの光景を眺める事になりますが、物語を紐解いてみればこの期間にも子供たちは主人公や花嫁と同じくパパスの遺志をしっかりと抱き、そこに家族らしい触れ合いは無かったけれど、1つの志の下で家族になっていたんだとめちゃくちゃ安心しました。

 

ミルドラースについて

 物語としては倒される魔王として君臨したミルドラースですが、その中身は運命を変える為の努力や生に縋る気持ちなど、元人間という事を知らずに見ても中々に普通の人間らしいものだったように思えます。

部下を使い捨てて「あいつらが何かやっていたようだがそもそも必要の無い無駄な努力だったのだ」と言い切った点は邪悪さが見え隠れするようでもありますが、彼の部下の1人であるイブールは自分が滅びるのも勇者の復活もミルドラースの予言通りと語っている事から、彼ら部下連中は無理矢理働かされていたわけではなく本当に勇者に討たれる事を分かっていながらもボスであるミルドラースの運命を変えようと勝手に奔走していたのでしょう。愛されてますね。

さて、テーマについての項目でミルドラースエルヘブン出身の可能性が高いというお話をしました。その根拠を以下の要素で解説していきます。

  1. エルヘブンの民の特性とミルドラースの特性の類似
  2. エルヘブンにある書物
  3. エルヘブンの民が人間に戻そうとした

1.エルヘブンの民の特性とミルドラースの特性の類似

まずはエルヘブンの民の特性を確認しましょう。

 ①魔物と心を通わせる(エルヘブン民全般)

 ②魔物から邪心を払って人間に戻せる(マーサが行うが恐らくエルヘブンの民全般)

 ③未来を予言する(現エルヘブン長老)

 ④人間界・魔界・天空界を繋げる門を開閉する

この内①と③はミルドラースにも確認出来ますね(①に関しては心を通わせるというレベルではなく最早魅了や洗脳レベルですが)。

②は正直なんとも言えませんが、ミルドラースの話をしてくれる人物達は「心が邪悪過ぎて魔物になった」「己自身を魔物に変えてしまった」と言っています。

特別心が清らかなマーサは邪心を払って魔物を人間にしていたので、特別心が邪悪なミルドラースは人間を魔物に出来、それを自らに適用したと考えると無い話ではなさそうです。

元々魔物だった人間のエピソードですが、酒を飲んだだけでも邪心扱いで魔物になってしまうケースすらある為この世界での魔物と人間の境界なんてそう多くはないのかもしれません。

え? お酒なんて

飲んでないよ。

そんなことして また

魔物に もどっちゃったりしたら

イヤだからなあ。

 

━━ジャハンナの元魔物の人間/『天空の花嫁

④に関しては人間時代のミルドラースがこの能力を持っていたとしても神に剥奪されていると見るべきでしょう。でなければ折角魔界に封印したのに力がそれなりに戻れば出られてしまうわけですから。

 

2.エルヘブンにある書物

エルヘブンにある書物では以下のようなテキストを確認出来ます。

 

わが師は 賢者の中の賢者にして

王者の称号を持つ 唯一の存在。

この世に生まれ落ちた 現人神なり。

師は あまたの教えを伝えきれぬまま 災いのチカラをあび

無念の死を とげた。

だが 師の意志は絶えず。

暗き穴の底にて 真の勇者を今も待ち続けている。

 

エルヘブンの書物『わが師の意志』/『天空の花嫁

 

この中で注目したいのが

「賢者の中の賢者」「王者の称号」「災いのチカラをあびた」「真の勇者を今も待ち続けている」の4点です。一旦この書物をミルドラースの弟子が残したものと仮定してそれぞれ見ていきましょう。

前の2つについてはミルドラースと対峙した時の名乗りが類似しています。

 

「遂にここまで来たか 伝説の勇者とその一族の者達よ。

私が誰であるか そなた達には すでに分かっておろう。

魔界の王にして 王の中の王、ミルドラースとは私の事だ。」

 

ミルドラース/『天空の花嫁

 

「〇〇の中の〇〇」という肩書きや王という称号、どちらも人間時代に得ていた称号や呼び名から取っているとも考えられる類似の仕方をしていますね。

「災いのチカラをあびた」という記述については一見何らかの呪いを受けたようなニュアンスにも受け取れますが、魔物の事を災いとして扱うのであれば「魔物の力をあびた(魔物になってしまった)」という見方も可能なので、魔物になってしまったとされるミルドラースの過去と一致させられます。

 

「暗き穴の底にて真の勇者を今も待ち続けている」という一文については、前半の「王者の称号」という文言からこの書物は「おうじゃのマント」という防具について記述したものだという見方もあります。おうじゃのマントとは「封印の洞窟」というダンジョンの最下層に設置されている作中最高峰の防具アイテムです。

その見方も正しいと思います。つまり王者のマント=ミルドラースが人間時代に使用していたマント、というのが私の解釈です。

そもそもミルドラースとおうじゃのマントを関連付けるよりも前に、王という誉れ高い称号を持つ人間の遺品と思われるものが何故“封印の洞窟“などという表舞台から抹消されるような扱いをされているのか疑問ではないでしょうか?

このような扱いを受ける理由として主に考えられるものは

「マント自体が曰くつきだった」

「国自体が何かしらの原因で存在を抹消された」

「それを身に着けていた王が禁忌クラスの罪を犯した」

などでしょうか。

順に見ていくと、ドラクエシリーズには“呪われた装備“という装備するとデメリットを発動してしまう装備があり、曰くつきの装備はこれに該当する場合がほとんどですがおうじゃのマントは装備しても呪われないので曰くつきである可能性は低いでしょう。

国自体の抹消は書物が別の場所から移された可能性があるので否定しきれませんが、滅ぼされた国ならともかく存在の抹消レベルの話となると特に作中で出てこない事から肯定も難しい状況です。

しかし「王が禁忌クラスの罪を犯した」であれば、仮にミルドラースエルヘブンで何らかの王と称される存在であった場合に、“魔物になってしまった“という過去がそれに該当すると見る事が出来ます(そもそも神に仕える民族でありながら神になろうとする事自体が禁忌とされていそうですが)

つまり

ミルドラースエルヘブンで何らかの王と称される存在であったが神になろうとした事で神の怒りを買い、本人は魔物にされて魔界に封印され、象徴であったマントは人間界の中でも最も難易度の高い洞窟の最深部に封印された

というストーリーラインです。あるいはマントに関しては、ミルドラースの罪を恥じたエルヘブンの民がその痕跡を消そうと封印した可能性もありますね(特に言及がないので想像の域を出ません)。

この“王者“が意味する所がエルヘブン自体を治めていた国王なのかただの称号なのかはわかりませんが、エルヘブンは元々王政だったものの、国の歴史の汚点となるミルドラースという王を生み出してしまった事からパワーバランスを保つ為に4人の長老が治めるように変化した、みたいなストーリーを妄想したくなりますね。

纏めると、この書物はおうじゃのマントとミルドラース両方の事を指したダブルミーニングだとも捉えられ、ミルドラース=エルヘブンの民説を補強出来るのはないでしょうかという事です。やや蛇足気味ですが、“勇者を待つ“に関してもミルドラースの目的と合致していますね。

テーマの部分の話も引っ張ってくるのであれば個人的にはミルドラースは意志力の塊だと感じるので、書物のタイトルに“意志“と入っているのもミルドラースらしさがある部分かなと思います。

 

3.エルヘブンの民が人間に戻そうとした

 作中でミルドラースに関する言及は多くありますが、具体性を持ったものは多くありません。そして特定の土地とミルドラースを関連付ける言及となるとアンクルホーンから聞けるこの話くらいのものではないでしょうか。

 

その邪悪な心を ふりはらうため

エルヘブンの民が 立ち向かったが

あまりに 心の闇は 深く……

もはや 人間に もどすことは

できなかったという。

 

━━アンクルホーン/『天空の花嫁

 

仮にミルドラースサンタローズ出身だとすれば、その周辺に何らかの伝承や「魔物になってしまった人がいた」という話が残っていてもおかしくなさそうですが、そういった“どこでミルドラースの事件が起こったか“の話はどこに行っても聞けず、地名を伴うエピソードはこの“エルヘブンの民が対応した“という話しか存在しません。

となればエルヘブン内で起こったからエルヘブンの民が対応をしたのではというシンプルな結び付けが行われ、他の根拠と合わせるとある程度正しいと言えるのではないかと思います。

テーマの統括-あらゆる運命においても抱ける幸せってなんだろう?

 クリア後に行ける過去のエルヘブンではこんな話を聞けます。

神に 選ばれし者は

人なみの暮らし 人なみの幸せは

のぞめないのが 運命……。

マーサも それをわかっているはずなのですが……。

──エルヘブンの長老/『天空の花嫁

 

これは生まれつきの才覚がありすぎた為に部屋で一日中祈りを捧げるような生活を半ば強いられているマーサについての言及です。

この後パパスがマーサを連れ出す形で駆け落ちをし、結婚して主人公が生まれます。

ここまで聞くと愛が運命を乗り越えたんだな感ありますが、主人公が生まれてすぐの事です。マーサは魔界に連れ去られ、結局そのまま魔界で亡くなってしまいます。

自由を奪われ、生まれ故郷を抜けてまで結婚したのにこれでは確かに人並みの幸せを送れたとは言えないかもしれません。つまりミルドラースと同じく運命に抗えなかったという事ですね。

そしてそのミルドラースも、主人公達と対峙した時にこんな事を言います。

 

私は 運命に選ばれた者。

勇者も 神をも こえる存在

だったのだからな……。

 

──ミルドラース/『天空の花嫁

 

運命と神という違いこそあるものの、どちらも抗いようのない絶対的なものと考えるとミルドラースにも"生まれからして人並みの幸せは望めなかった"が言えますし、実際最も運命に翻弄された人物でしょう。

しかし、人並みの幸せなんて送れなかったマーサは決してミルドラースと同様に無念を抱いて亡くなったわけではありません。

先に画像を貼っていたように、エンディングでマーサはパパスと共に天国から子供たちの幸せそうな顔を見てまた彼女自身も幸せそうにしていましたね。

なのでマーサにおいては、「私の大好きな家族がまたその家族と幸せそうにしてくれているなら、人並みの幸せじゃなかったとしてもこれが私の幸せです」という幸福観を持っていたのでしょう。

「愛する家族と共に生きる」のような幸福観を持ったパパスとはある意味鏡のような幸福観ですね。

 

"人並みの幸せは望めない運命"と言われた中で自分の命が亡くなってもその幸せを叶えられたマーサ。そしてそれを叶えたのは紛れもなく命の危機にあってもその遺志を継承したパパスです。

 

人生には恵まれなくて、家族とも一緒に居られなかった

でも、それでも、私が愛する家族は生きていて幸せそうにしている

そして私を愛してくれている人がいる

運命も人並みだったかどうかも関係ない

これが私の最上の幸せなんだ

 

本作で起きた"遺志の継承"に付随してきた意義を見出すならこんな感じでしょうか。

今作のエンディング曲でもある「結婚ワルツ」は正直あまりドラクエのエンディング曲らしくない(というか魔王を倒して世界平和!系のRPGのエンディング曲らしくない)と思っていたのですが、運命に翻弄されつつも亡くなってすら幸せであったマーサという1人の女性の幸せの源流(マーサの幸せは、自身の結婚から生まれた息子である主人公、そして主人公の結婚が無ければ生まれなかった)を表す曲と考えると余りにもしっくり来るものがあります。

マーサがかつて使っていた部屋を訪れるとこんな話が聞けます。

 

マーサさまは いつも

おっしゃっていました。

心に 光をともしていれば

決して 闇に飲まれることはないと。

 

━━マーサの侍女/『天空の花嫁

 

彼女の生まれと、マーサに助けられた者達の町と言っても過言ではないジャハンナで聞ける話から察するに、ここで言う闇とは運命のことで、心に灯す光とは誰かを想う気持ちの事なのでしょう。

 

あなたには心から幸せを願える、愛する誰かがいますか?

 

 

マスタードラゴンについて

蛇足ですが、ミルドラースが目指したものであり、マーサを選んだとされる神ことマスタードラゴンはというと、全てが解決した後、エンディング直前に人間の姿で宴に忍び込んでワイワイやってる姿が確認出来ます

 

「やはり 人間というのはいいものだなあ……。」

 

━━プサン(マスタードラゴン)/『天空の花嫁

 

ボケがよ。

神(運命)に選ばれた者は人並みの幸せな望めず、"生きたい"という余りにも原初的で人並みと言える望みを叶える為に神になる事すら求めたミルドラースは死に、その神は人の姿で酒を呷っています。

人間と比べて遥かに遥かに長い寿命を持つ彼の事です。平和が訪れたこの世界で、人よりも、人の幸せを欲して魔王になった者よりも人並みの幸せを楽しむ事でしょう。皮肉が過ぎる……。

めちゃくちゃ頑張って好意的に解釈するのであれば、ミルドラースと同じ運命にあったマーサや死んでも遺志を継いだパパスなど人間の主要人物は結局幸せになっています。

ここでマスタードラゴンも神から人間になる事で(意図的に人間以外を排除する事で)、“人間である限りどんな運命の中に幸せはある“というような意味合いを持たせたかったのかもしれませんね。

 

ミルドラースよ、安らかに眠り給え。

 

あとがき

おしまいです。

 正直最初は「この作品のテーマってよく言われているような単純なものじゃないんじゃない?」みたいな気持ちから入っていたのですが、作中で明言されていない要素や考察を進めていくと別のテーマを経由して結局同じような所に行きついたので1人で感動していました。

ミルドラースの話なんかはあくまで人間時代の正体の考察に留めるつもりで書いていたのですが、「ってことはこうじゃん」「ってなるとこう言えるじゃん」のような形でどんどん連鎖して収拾がつかなくなってしまいました。結果的にテーマの項でガッツリ書いてもいい内容が補足の方に入っちゃってるじゃん…………。

本当はビアンカのリボンの話なんかも絡められたらよかったのですが、掘り下げが上手く出来ずに浮きそうだったのでやめました。ビアンカでプレイし直したらまた良いテキストや閃きが生まれるかもしれないですね。

 作品全体と言えばいいでしょうか。敵や人物の生き様、出来事によるテーマなどその多くが同じ方向を向いている作品というのは好みの程度はあれどどれも心に残るもののような気がしますね。

 私はドラクエは10以外プレイしており、本作は特に印象に残っている作品で何度もプレイしているのですが今回改めてテーマを見つめながらプレイする事で感覚的にだけでなく言語的にもこの作品が好きだと伝えられるようになったので書いてよかった記事でした。

読んで頂いた方はいかがでしたでしょうか?

何か感じる所があったら、ぜひこの記事を通してもう1度本作をプレイしてみて欲しいです。私はめちゃくちゃ結婚したくなりました。

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